「ビジネス価値」志向の実現に向けて
1.従来のプロジェクト実行志向から、「ビジネス価値」志向へ
企業がビジネスの革新を進める過程で、クロスファンクション活動や「プロジェクト」と呼ばれる企業活動が増えると共に、情報技術(IT)が大々的に導入・活用されてきました。例えばコンピュータシステムの導入プロジェクトでは、システム開発をどのように行うかやシステム開発・導入プロジェクトの管理に膨大な時間的・人的・経済的投資をしてきました。その主な目標はいわば、「QCD(品質・コスト・期間)」の指標を達成する、ということであったと言えます。
しかし、ITやITを活用したプロジェクトが「経営や戦略に真に貢献してきたか」となると、経営者の満足度は必ずしも高くないようです。それは何故なのでしょうか。
近年になりプロジェクトレベルでビジネス要件を正しく定義することの重要性が認識されてきています。ビジネスアナリシスをプロジェクトレベルで適用しようとする企業や、プロジェクトマネジメントだけでなくプログラムマネジメントに視点を移そうとする企業は、いずれも「達成すべきビジネス価値は何か」という点に注目しています。
しかしこれはまだプログラム/プロジェクトレベルのみで行われているものであり、それらとビジネス戦略全体との整合性がとれているとは必ずしもいえません。
一部の企業では、プログラム/プロジェクトが始まる前の段階からビジネス戦略とビジネス・ITのアーキテクチャとを同時にマネジメントすることの必要性(アーキテクチャ・ファースト,図1)に気づき始めています。そこでは経営・戦略(ビジネス)とIT投資(テクノロジー)とのギャップを埋める具体的な手法が求められます。
図1 アーキテクチャ・ファースト
これら一連の課題意識の変遷(図2)は、「プロジェクトを計画通りに完了しさえすればよし」と理解されがちであった従来の姿勢から脱し、「プロジェクトの実行により『ビジネス価値』を生み出す」という新たな視点へとつながっていくことになります。
図2 課題意識の変遷
こうした ビジネス価値を生み出すことをビジネスとプロジェクトの活動の中心におき、アーキテクチャーファーストで価値を生み出すマネジメントプロセスを運営していくことこそが、企業にとって最も重要な活動だと言えます。(図3)
また近年は、アジャイルのアプローチの必要性が高まっています。アジャイルのアプローチは、この基本サイクルを、如何に高速に回すか、またより重要なことは、如何に不確実性の高い環境下で適用していくかの議論であり、何か全く異なるマネジメントサイクルが生み出されるわけではありません。
図3 ビジネス価値実現のビジネス・ITマネジメントサイクル
2.ビジネス価値志向組織に向けたスキルセットの革新の方向性
多くの企業は長年、国内オペレーションを基本としたマネジメントを行ってきました。一方で販路や生産拠点のグローバル化を大々的に進めてきた企業でも、果たしてどのくらいが本当の意味での「オペレーションのグローバル化」を実現できているのでしょうか。日本人を中心とした、日本人の価値観や日本固有の”常識”をベースとしたオペレーションプロセスを、海外でのマネジメントにも半ば強引に当てはめようとするケースが、実は多いのではないでしょうか。
グローバル化が急激に進む現在のビジネス環境では、国内での改革プロジェクトとグローバルな改革プロジェクトを同時に成功させることが不可欠です。そのためには、国内で築き上げてきたシステム開発手法やプロジェクトマネジメントの手法を、他国との混合プロジェクトチームにも通用する真にグローバルな手法・スキルにグレードアップする必要があります。(図4)
また、①ビジネス価値にフォーカスした組織力をつけるために何をすべきかを明確にし(戦略・ビジネス要求)、②それらを実現するビジネスアーキテクチャとITアーキテクチャを構造化し、③現在の「ギャップ」から実行すべきプログラム・プロジェクトを明らかにし、④システムの導入だけでなくビジネス・組織の改革を実現していく、といった力も必然的に問われてきます。
つまり、「ビジネスアナリシス力」「アーキテクチャマネジメント力」「ポートフォリオ・プログラムマネジメント力」および「組織チェンジマネジメント力」の4つの能力が必要となるのです。(図4)
図4 組織力の展開の方向性
中でも「ビジネスアナリシス力」は、残り3つの能力に対して中核をなすものです。ビジネスアナリシスは「要求」をコンセプトの中心におき、「アーキテクチャ」「ポートフォリオ」「プログラム・プロジェクト」「組織変革」といった、マネジメントのベースとなるプロセスや重要なインプットを提供します。(図5)
図5 ビジネス価値志向における新しいスキルセット
3.ビジネス価値志向における主要アクティビティとスキルとの関連
では、これらの4つの能力は、実際のビジネス組織でのアクティビティの中でどのような形で求められていくのでしょうか。
ビジネスアクティビティを、ビジネス(業務)/ITの軸およびモデル/実装の軸のマトリクスで示すとします。実装レベルのアクティビティは、「定常活動としてのアクティビティ」と「プログラム(プロジェクト)化された活動としてのアクティビティ」に分けられます。定常活動においては、戦略とそれを形にしたアーキテクチャに対して現実世界に落とし込む(実装する)プログラム/プロジェクト活動をつなぐために、ポートフォリオ管理が行われます。
またIT部門は、システムの運用保守を日々担ってきた一方で、その前提となるはずのビジネスプロセスやビジネスルールは明確にマネジメントされてきませんでした。そのため、ビジネス環境の変化に対応するための変更やそのインパクトの測定が迅速に行われてこなかったとも言えるでしょう。それゆえ、近年、ビジネスプロセスやビジネスルール自体の経常的なマネジメントが重視されてきています。
プログラム/プロジェクトレベルの導入活動においても、ビジネス価値実現のためのプログラムマネジメントタスクを定義し、何を実現するかの要求開発を効果的に行い、システム開発と並行して「チェンジマネジメント」(組織の変革活動)を実行する必要があるといえます。(図6)
図6 ビジネス価値志向アクティビティの体系
これらのアクティビティを、定常業務とプログラム/プロジェクト活動の時間軸にあわせ再プロットし、そのアクティビティ上に、4つの能力をマッピングしています。ビジネスアナリシスは多くのアクティビティと接点をもつことが分かります。(図7)
図7 ビジネス価値志向アクティビティと新世代ITマネジメント能力マッピング
4.ビジネス価値志向を実現するビジネステクノロジー機能
では、このようなビジネス価値志向を実行する主体は、誰なのでしょうか。
ビジネスアーキテクチャ、BPM(Business Process Management)、BRM(Business Rule Management)、組織チェンジマネジメント等は、従来の区分ではビジネス(業務)部門が果たすべき機能のように見えます。一方、ITアーキテクチャ、システム設計・開発・運用保守はIT部門の機能のように見えます。しかしこれまで、この区分ではビジネスとITのギャップを埋めることはできませんでした。
先進的な企業ではすでに、ビジネスアーキテクチャとITアーキテクチャを考える部門を一つに統合(=業務要員とIT要員を組織統合)したり、ビジネスプロセスをIT部門の責任管轄にしたり、組織チェンジマネジメントタスクやビジネス要求開発タスクを専門に行うビジネスアナリシス部門を立ち上げるなど、従来のビジネス部門とIT部門の垣根を越えた様々な役割モデルの構築が試されています。「ビジネスとITのギャップを埋めることでビジネス価値を創造する」という考え方がこの流れの背景にあることは言うまでもありません。
組織においてビジネスとITのギャップを埋めるために必要な機能を、弊社では「ビジネステクノロジー機能」と呼びます。そして、このビジネステクノロジー機能を高めるために必要な4つの能力が「新世代のITマネジメント能力」なのです。(図8)
図8 ビジネステクノロジー機能
ではこの「ビジネステクノロジー機能」は、具体的にどのように組織化することができるのでしょうか。(図9)
ビジネスとITのアーキテクチャは、エンタープライズアーキテクチャ(EA)部門、EAO(Enterprise Architecture Office)、ITAO(IT Architecture Office)、などの名前の組織でマネジメントされ、これらの組織はアーキテクチャを設計・管理する責任と権限を持ちます。AS-ISのアーキテクチャからTO-BEのアーキテクチャに変える際のギャップを埋めるプログラムやプロジェクトを企画し、それに対して実行管理を行うためのポートフォリオマネジメント機能を、PMOが行います。このプログラム/プロジェクトの優先順位付けと選定プロセスをアーキテクチャ部門で行うかPMOで行うかどうかは、組織によって異なります。ビジネス要求の開発や定義、組織BPRの実行といったチェンジマネジメント活動は、ビジネス(業務)部門メンバーとともに、それを支援するビジネスアナリストチームやBPR推進チームといった専門の部門が実行することになるでしょう。プログラム/プロジェクトの実行段階では、ビジネス価値実現マネジメントやプログラム/プロジェクト全体のガバナンス、および各プログラム/プロジェクト内でのマネジメント活動がPMOとして実行されます。
組織への実装モデル(組織や役割の定義)は、その企業固有の方針や業界の特性などに影響を受けると考えられ、それに合った最適なデザインが求められます。しかし、必要とされる機能は普遍的なものです。それらを具体的な組織にどう当てはめ、最大限の効果を発揮させられるかという点が大変重要になります。
図9 ビジネステクノロジー機能の組織設計
株式会社クリエビジョンは、
「新世代のITマネジメント能力」を持つ人材の育成や「ビジネステクノロジー」のノウハウ活用により御社の「ビジネス価値」志向への転換をお手伝いいたします。
株式会社クリエビジョン
〒530-0001 大阪市北区梅田2-2-2 ヒルトンプラザウェストオフィスタワー19階